あと数ヶ月で資金切れ…。こだわり抜いたからこそ生まれた致命的な失敗と大きな可能性

今回は「ふじみ歯ならびクリニック」院長の高橋一人さんに独立の失敗談をインタビューさせていただきました!独立する業態にこだわったからこそ生まれた失敗と、それによって辿り着いた現在の仕事や活動までのエピソードをぜひご覧ください! ー編集者:わか

作業のように過ぎていった勤務医時代

まずは、現在のお仕事や活動について教えてください。

2014年から、静岡で歯ならび治療を専門としたクリニックを経営しています。

一般的に歯医者といえば、虫歯治療や検診など幅広く治療を行っているクリニックが多いのですが、「ふじみ歯ならびクリニック」は歯並び治療に特化した専門的なクリニックです。


どうして歯並びに特化しているのでしょうか?

一人ひとりの患者さんに時間をしっかり費やせるような働き方がしたかったからです。

独立前は、埼玉県のとある歯科クリニックにて勤務医として働いていたのですが、かなり高い生産性を求められる職場で、朝から晩まで治療をし続ける日々で、患者さんと丁寧なコミュニケーションをとるような余裕がなかったんです。

かつて思い描いていた歯医者のイメージとは大きな乖離があって、かなりしんどい時期でした。そういった経緯もあって、ゆとりをもって経営できる形にしたいという気持ちを強く持っていましたね。


当時は相当ハードな環境だったんですね。

そうですね。

また、当時働いていた職場は2つのクリニックを経営していたのですが、人手不足だった都合もあって、ある日突然1つのクリニックを一人で回すように任されたこともありました。そういった無茶振りがあったという意味でも、なかなかハードだったかもしれませんね(笑)

当時のハードさを笑顔で語る高橋さん

なんと!いきなりハードルが高そうですが…不安はなかったんですか?

不安はあまりなかったですね。
担当することになったクリニックの患者数がまだ多くなかったこともありますが、ぼんやりと独立を視野に入れていた自分にとって、全て一人で回さなければいけない環境はポジティブなものでした。

また、自分は大学時代からかなり熱心に勉強してきたという自負があって、知識面は自信があったので実践的な技術も身につくいい修業の場だと思っていましたね。


準備万全のところにチャンスが巡ってきた訳ですね!その頃から歯並び専門だったんですか?

いえ、実は自分は虫歯治療を専門とした一般的な歯科医師だったんです。大学でも虫歯治療を専門としていたので、そもそも歯並びを専門とするような経歴ではないんです。


そうだったんですね。どんな経緯で専門を変えられたんですか?

最初のきっかけは、同じ職場で働いていた先輩医師からのひょんなアドバイスでした。「歯並びの治療ができるなら、それだけで開業してみるのもアリじゃない?」と。

それが虫歯治療を専門でやってきた自分にとって、すごく新鮮なアイデアだったんですよね。

もともと大学院時代には、歯並びの先生のもとでアルバイトとして勉強させてもらっていたことがあったので、その経験と先輩からのアドバイスが相まって、歯並びだけでの開業を本格的に考え始めました。


なるほど。そこから一気に歯並び専門の医師になっていくわけですね!

はい。自分はとにかくゼロヒャク思考といった感じで、これだ!と思えるものを見つけたら頭が完全にそれで埋まってしまうんですよね。極端な性格なんです(笑)

極端すぎて仕事の優先度を下げてしまうこともあるんだとか(笑)


なので歯並び治療に関することを徹底的に追求したくなって、とにかく猛烈に勉強しましたね。

当たり前とされている処置方法に対して疑問を感じることがあれば、なぜその処置方法で十分といえるのか、もっと改善できるのではないかと、歯並びや噛み合わせに関することはとにかく深く調べて勉強しました。

自分にとって新しい分野ではありましたが、やはり過去に誰よりも勉強したという自信のおかげで、新分野でのスキル習得に対してもかなり前向きでしたね。

独立後の順調なスタートと急激な失速。そして窮地へ。

それから地元静岡に戻り独立されたわけですね。開業後の調子はいかがでしたか?

1年目は順調だったと思います。

開業時にはクリニックの内覧会を企画して、新聞の折込チラシを使って宣伝を行いました。
ありがたいことにたくさんの来場者を迎えることができ、その後クリニックを利用してくださる方もいて、おかげさまで良いスタートを切ることができたと思います。

お子さまの来院を想定したクリニックの様子


ただ、その効果が続いたのも最初の1年だけでしたね..。


宣伝効果が切れてしまったのでしょうか?

そうですね。

一般的に歯並び治療というのは、検診などで定期的に通っている患者さんを診ていく中で、その一部の方が受診するような流れが多いんです。患者さんと会話している中で歯並び治療も提案していくイメージですね。

ただ自分のクリニックは虫歯治療などを受けていなかったので、そもそも歯並び治療を検討しているような患者さんとの接点をもつ機会がなかったんです。ここがビジネスモデルとしての欠陥でもありましたね。

新しい患者さんが増えてはいなかったので、初期に来てくださった患者さんが治療を終えていくにつれて、徐々に空き時間が増えていき、次第に焦りと不安が増していましたね..。


なるほど..独自性の高い形態だったからこその課題だったんですね。

はい。
独立時に融資していただいた銀行にも相談しながら、なんとか資金繰りを頑張って帳尻を合わせていたのですが、調子が戻らないまま返済だけが訪れる状態で、資金も残り2,3ヶ月で尽きる…というところまできてしまっていました。

気軽に相談できる相手がおらず、精神的にも厳しい戦いだった

「相手ありきの考え方」で状況が少しずつ好転

ギリギリですね.. その窮地から抜け出せたのはどんな変化によるものなんでしょうか?

物事の捉え方が変わったことだと思います。具体的には「自分中心の考え」から「相手ありきの考え方」に変わったことですね。

解決策を模索する中で、そもそも自分が「誰のために」「何のために」「なぜ」歯並びの治療をするのか、を深堀りしたんです。改めて自分が歯医者として働く目的を見つめ直そうと。

その中で理解できたのは、自分は「お子さんの健康のため」「お母さんの笑顔のため」に仕事をしているという根っこにある価値観でした。

実を言うと、クリニックを持ち直せた具体的な正確な要因は正確にわかってないんです。ただ、こういった考えに変わってから、少しずつ状況が好転していったという実感があります。

無意識だとしても、考え方や姿勢の変化が施術や患者さんとのコミュニケーションなどに現れていたのかもしれませんね。


今の高橋さんを見ていると、自分ありきな考えだったというのは少し意外ですね。

以前は、それがかなり強かったと思います(笑)
医療系という閉じた環境に長くいたことも影響しているかもしれませんが、自分はとにかく勝ち負けや損得の感情が強かったんですよね。

その負けん気がハードな環境を乗り越える原動力だったのも事実ですが、経営が危機的状況に陥ったことで、徐々に「自分」ばかりが先行する考え方ではいけないと感じるようになっていきました。

そこから知人に誘われて歯科業界外の方に出会う機会が増えたり、外の勉強会等にも参加するようになりました。多様な考えに触れることで、少しずつ相手ありきの考え方が身についていったように思います。

こだわったからこそ失敗し、こだわったからこそ助けられた

意外にも歯科業界の外に大切なヒントが転がっていたんですね。

はい。同業者ももちろんですが、やはり業界外の幅広い考えにふれて得られる学びというのは本当に大きいと思っています。

現在はあまり時間を使えていませんが、その後は自分自身も多業種の方と一緒に学べるような地域コミュニティを作ったり、コミュニティ同士をつなぐ活動を行ったりと、歯医者業以外の活動にも力を入れていました。

「本業以外での活動による学びが非常に大きかった」

なるほど。そんな活動ができたのも、作業に追われる仕組みにしなかったことが大きく貢献しているようにも思えますね。

まさにそうかもしれません。
これまで業界外の方と一緒に活動できたのも、それをやる時間のゆとりがあったからというのは間違いないですね。

独立後、本当に厳しい時期が続きましたが、勤務医時代に過ごしていた作業のような毎日のことを思い返すと、患者さんとコミュニケーションがとれるゆとりをもった経営を諦めるという気にはなりませんでした。

それにこだわったからこそ生まれた窮地でもありますし、そこから救ってくれたのもまたそのこだわりだったかもしれませんね。


とはいえ、こだわりを貫き通すのが難しいという方もいると思います。行動する上でなにかコツはありますか?

挑戦したいことやこだわりたいことがあれば、退路を断って「常にピンチで居続ける」ことが大切だと思います。

安全地帯が視界に入っていると、そっちに逃げるかどうかを考えてしまいますよね。

極端な話に聞こえるかもしれませんが、本当に退路がなくなると「できるかどうか」よりも「できるようにするためにどうするか」を考えるようになります。
戻る道がなければできるかどうかの答えを出しても意味がないですし、そうなったらもうやるしかない。と腹をくくれると思いますね。


できるかどうかではなく、まず「やる」ことを決めきるということですね。

その通りです。
実際にやってみたら思いの外上手くいくなんてことも多いと思います。また、業界外に思いもよらない立て直しのヒントがあったように、やってみないと出会えない学びというのも実際に多いと思います。

挑戦したいことやこだわりたいことが見つかったら、まず後ろの扉を締めて、いかに前に進むかを考えてみるのも良いと思います。


困難を乗り越えてきた高橋さんらしいアドバイスですね!
本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

ふじみ歯ならびクリニック
https://www.fujimihanarabi.com/

こだわりをもって数々の困難を乗り越えられてきた高橋さんが院長を務めるクリニックです。下記ページには高橋さんの想いも語られていますので、ぜひご覧ください!

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